2022/10/3 拠点メンバー(荒川賢治准教授グループ)の国際共同研究成果がFuture Medicinal Chemistry誌に掲載され、プレスリリースを行いました

【研究成果】コンピューター予測を基に、放線菌由来のランカサイジンの抗がん活性を7倍高めた誘導化合物の合成に成功しました

◉本研究成果のポイント
 標的タンパク質β-チューブリンと抗腫瘍化合物ランカサイジンCの構造情報を基にしたバイオインスパイアード計算機シミュレーションを行ったところ、C-7位およびC-13位水酸基のエステル化による抗腫瘍活性の向上が予想されました。両水酸基にアセチル基、シンナモイル基、ヒドロシンナモイル基を導入したところ、とりわけ13-O-シンナモイルランカサイジンCは、ヒト子宮頸がんHeLa細胞に対して7倍の抗腫瘍活性を示しました。さらに7,13-ジ-O-シンナモイルランカサイジンCは、HeLa細胞株、ヒト乳がんMCF-7細胞株、ヒト肺がんA549細胞株のいずれにも効果的な抗腫瘍活性を示しました。本成果は、より顕著な抗腫瘍活性を示す次世代ランカサイジン誘導体の構築に道を示したとともに、将来的なさらなる構造改変により「究極の」抗腫瘍活性化合物の創成が期待できます。

◉概要
 広島大学大学院統合生命科学研究科・広島大学健康長寿研究拠点の荒川賢治准教授の研究グループは、カナダ・HToO生物科学研究所のAhmed T. Ayoub博士、富山大学和漢医薬学総合研究所の森田洋行博士、カナダ・アルバータ大学のGordon Chan博士らとの共同研究により、微小管脱重合阻害作用を有するランカサイジンと標的タンパク質チューブリンとの相互作用について計算機シミュレーションを行ったところ、7,13位水酸基にフェニルプロパノイド基などのエステル誘導体が結合ポケットを充填し、阻害活性作用の向上が示唆されました。このように抗腫瘍活性において、標的分子(この場合はチューブリン)に対して候補化合物(ランカサイジン誘導体)を適切にチューニングし、活性向上が想起された誘導体の合成を行う、という学際的国際共同研究を行いました。
 我々はランカサイジンCのC-7位, C-13位水酸基に対してアセチル基、シンナモイル基、およびヒドロシンナモイル基を導入し、それらの抗腫瘍活性を調べました。母核化合物ランカサイジンCと比較して、13-O-シンナモイルランカサイジンCは、HeLa細胞に対して7倍の抗腫瘍活性を示しました。さらに7,13-ジ-O-シンナモイルランカサイジンCは、本研究で使用した3株(HeLa細胞、MCF-7細胞、A549細胞)のいずれにも顕著な抗腫瘍活性を示しました。このように、C-13位水酸基のシンナモイルエステル化による抗腫瘍活性の向上は、計算機シミュレーションによる予測とよい一致をしました。
 本成果は、より顕著な抗腫瘍活性を示す次世代ランカサイジン誘導体の構築に道を示したとともに、将来的なさらなる構造改変により「究極の」抗腫瘍活性化合物の創成が期待できます。
 本研究成果は、2022年9月8日にFuture Science社の科学誌「Future Medicinal Chemistry」に掲載されました。なお、本研究は日本学術振興会の「二国間交流事業・エジプトとの共同研究」による国際共同研究成果となります。

◉発表内容
【背景】放線菌Streptomyces rochei 7434AN4株が生産する17員環カルボサイクリックポリケチド化合物ランカサイジンCは、タンパク合成阻害作用をもつ抗生物質として単離されました。我々は計算化学を基にしたバーチャルスクリーニングを行い、ランカサイジンCが抗腫瘍活性を有し、その作用メカニズムはチューブリンを標的とした微小管脱重合阻害剤で抗がん剤として用いられているパクリタキセルと類似であることを示しました (J. Med. Chem. 2016)。また、我々はごく最近、ランカサイジンCのδ-ラクトンは抗腫瘍活性に必要でないことも見いだしました (Bioorg. Med. Chem. 2022)。

【研究成果の内容】微小管脱重合阻害作用を有するランカサイジンと標的タンパク質チューブリンとの相互作用解析について計算機シミュレーションを行ったところ、7,13位水酸基にフェニルプロパノイド基などのエステル誘導体が結合ポケットを充填し、阻害活性作用の向上が示唆されました。そこで我々はランカサイジンCのC-7位, C-13位水酸基に対してアセチル基、シンナモイル基、およびヒドロシンナモイル基を導入し、それらの抗腫瘍活性を調べました。母核化合物ランカサイジンCと比較して、13-O-シンナモイルランカサイジンCは、HeLa細胞に対して7倍の抗腫瘍活性を示しました。さらに7,13-ジ-O-シンナモイルランカサイジンCは、本研究で使用した3株(HeLa細胞、MCF-7細胞、A549細胞)のいずれにも顕著な抗腫瘍活性を示しました。このように、C-13位水酸基のシンナモイルエステル化による抗腫瘍活性の向上は、計算機シミュレーションによる予測とよい一致をしました。

【今後の展開】 本成果は、より顕著な抗腫瘍活性を示す次世代ランカサイジン誘導体の構築に道筋を示したとともに、将来的なさらなる構造改変により「究極の」抗腫瘍活性化合物の創成が期待できます。

図 ポリケチド化合物ランカサイジンCのエステル化およびそれらの結合エネルギー・分子動力学計算・抗腫瘍活性・結合相互作用

◉語句説明
放線菌:抗生物質・抗がん剤など我々の健康長寿に役立つ生理活性物質を生産する微生物の総称。
バイオインスパイアード計算機シミュレーション:生物界や生体分子の情報を元に計算機(コンピューター)予測をする方法。逆もまた真であり、計算機シミュレーションを使用して生物学的システムのモデル化も可能である。
微小管脱重合阻害作用:微小管は、細胞分裂の祭に形成される分裂装置であり、タンパク質チューブリンからなる。ガン化学療法に用いられる有糸分裂阻害剤としては、微小管重合阻害を有する化合物がよく知られていたが、パクリタキセルは脱重合阻害という、これまでと異なる細胞分裂阻害作用を示す抗がん剤として注目されている。2016年の研究 (J. Med. Chem.) により、ランカサイジンCもパクリタキセルと類似の脱重合阻害作用を示し、標的分子がチューブリンであることが分かった。

◉論文情報
雑誌: Future Medicinal Chemistry
DOI:10.4155/fmc-2022-0134
題目: Bio-inspired computational design of lankacidin derivatives for the improvement of antitumor activity
著者:Ahmed Taha Ayoub1,#, 西浦菜摘2,3,#, 手島愛子2,3, Mohamed Ali Elrefaiy4,5, Rukman Muslimin2,3, Kiep Minh Do6, 児玉猛6, Cody Wayne Lewis7,8, Gordon Chan7,8, 森田洋行6, 荒川賢治2,3,*
  1:カナダ・HToO 生物科学研究所
  2:広島大学大学院統合生命科学研究科
  3:広島大学健康長寿研究拠点
  4:米国・南メソジスト大学
  5:エジプト・ズウェイル科学技術都市大学
  6:富山大学和漢医薬学総合研究所
  7:カナダ・アルバータ大学Cross Cancer Institute
  8:カナダ・アルバータ大学 北アルバータがん研究所
  # :共同筆頭著者
  *:責任著者

報道発表資料(529.31KB)

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