【2022/4/11 拠点メンバー(水沼正樹教授グループ)の研究成果がAging Cell誌に掲載され、プレスリリースを行いました】

【研究成果】肉や乳製品等に多く含まれるアミノ酸の一種(Met)の代謝物が線虫の寿命を延長する作用があることを発見~カロリー制限に代わる新たな健康法として期待~

本研究成果のポイント
●代謝物S-アデノシルホモシステイン(SAH)(注:1)は、パン酵母と線虫C.エレガンスの寿命を延長する。
●SAHは、細胞内メチオニン(Met)(注:2)量を減少させる(Met制限)。
●SAHは、Met制限に関連した健康効果(オートファジー(注:3)の活性化など)をもたらす。
●SAHの利用は、哺乳類の健康寿命の延伸につながる可能性がある新規介入方法である。

概要
 アミノ酸の一種であるMetの代謝物であるSAHを餌として与えるだけで、酵母と線虫の寿命が延長することを明らかにしました。SAHを酵母に与えると、アミノ酸の中でMetのみが有意に減少することを発見しました。さらに、SAHはこれまでに報告されているMet制限による健康効果を誘導することを見出しました。SAHによる健康効果は、ヒトなどの哺乳類でも同じことが起きることが予想され、SAHの利用は老化予防・健康寿命の延伸に貢献する新しい介入方法と期待されます。
 本研究は、広島大学大学院統合生命科学研究科の水沼正樹教授、益村晃司さん(博士課程後期2年生、日本学術振興会特別研究員DC1)、古原優希さん(博士課程前期1年生)、米国・ハーバード大学医学部・ジョスリン糖尿病センターのKeith Blackwell教授、小川貴史さん(日本学術振興会海外特別研究員・ハーバード大学/広島大学博士研究員)、酒類総合研究所の金井宗良主任研究員、慶應大学先端生命科学研究所の曽我朋義教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科の大矢禎一教授との共同研究による成果で、4月7日10時(イギリス時間)、老年医学・老年学の専門誌「Aging Cell」にオンライン掲載されました。

SAHによる寿命延長のモデル
SAHの摂取により細胞内のMetが減少し、酵母や線虫のMet制限に関連する利益が誘導される。 SAH投与は、SAM合成を活性化し、その結果、Metが減少、TORC1の阻害、オートファジーとAMPKの活性化を介して寿命が延長する。赤線:増加、青線:減少を示す。矢印:活性化、止印:抑制を示す。

用語解説
(注:1)S-アデノシルホモシステイン(SAH)
メチオニン代謝系において、生体内でメチオニンとATPからメチル基供与体となるS-アデノシルメチオニン(SAM)を合成します。SAMのメチル基を供与後、S-アデノシルホモシステイン(SAH)が生成されます。SAHはSAMのメチル基反応の競合阻害効果が知られています。
(注:2)メチオニン制限(Met制限)
低メチオニン食を食餌として与えたモデル生物(酵母、線虫、ハエ、ラット、マウス)の寿命を延長することが知られています。また、動物試験では酸化ストレス抵抗性の亢進、腫瘍の増殖を抑制することも報告されています。
(注:3)オートファジー
栄養飢餓に応答して不要となったタンパク質などを分解し、必要ならば分解で得たアミノ酸を再利用するシステム。長寿にはオートファジーの誘導が重要な役割を果たしている場合が多く報告されています。

論文情報
●掲載誌: Aging Cell
●論文タイトル: S-adenosyl-L-homocysteine extends lifespan through methionine restriction effects
●著者名: 小川貴史1,2,3,†, 益村晃司1,†, 古原優希1, 金井宗良4, 曽我朋義5, 大矢禎一6, T. Keith Blackwell3, 水沼正樹
1. 広島大学大学院統合生命科学研究科
2. 広島大学健康長寿研究拠点(HiHA)
3. ハーバード大学医学部・ジョスリン糖尿病センター
4. 酒類総合研究所
5. 慶應大学先端生命科学研究所
6. 東京大学大学院新領域創成科学研究科
†. 同等貢献
*. 責任著者
●DOI: 10.1111/acel.13604
報道発表資料(454.27KB)
広島大学研究者ガイドブック (水沼 正樹 教授)
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<お問い合わせ先>
広島大学大学院統合生命科学研究科
生物工学プログラム健康長寿学研究室
教授 水沼 正樹
Tel082-424-7765
FAX082-424-7765
E-mailmmizu49120hiroshima-u.ac.jp

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