海外派遣若手研究者のつぶやき 小川 貴史博士研究員(ジョスリン 糖尿病センター)「派遣先の研究環境と研究」を公開いたしました

派遣先の研究環境と研究

小川 貴史

  独立記念日以降、ボストンでは少しの間暑い日が続きましたが、8月に入りだんだんと日が短くなってきています。今回は、現在行なっている研究と研究環境について紹介させて頂きます。

ジョスリン糖尿病センターのあるボストンメディカルエリアでは、ハーバードメディカルスクールに付随する形で様々な医療系の研究機関が集まっています。各機関には臨床研究、基礎研究を行う研究室があり、Blackwell研究室では糖尿病などの加齢性疾患の発症機構について理解するため、老化のメカニズムについて基礎研究を行っています。

研究室ではヒトのモデルとして線虫Caenoraboditis elegansを用いています。線虫は、体長1mm程度の多細胞生物で、遺伝学的解析が容易で、1世代の寿命が3週間程度と短いため、遺伝学を用いた寿命制御メカニズムの解析に優れた生物として広く寿命研究に用いられています。

私はmechanistic target of rapamycin (mTOR)に着目して研究を行なっています。mTORは栄養やインスリンなどのシグナル伝達因子に応答して成長、増殖を制御するセリン/スレオニンキナーゼです。mTORはmTORC1とmTORC2の二つの複合体を形成し、mTORC1は転写、翻訳を調節して、成長を促進します。栄養が少ない時、mTORC1は活性が低下し、転写・翻訳の抑制やオートファジーの誘導によって、寿命延長することが知られています。一方、mTORC2は、代謝や細胞骨格制御などに関与して、mTORC1とは別のメカニズムによって寿命制御に関わることが知られています。このような知見から、mTORの機能解明はヒトの寿命制御のメカニズムを理解するために重要な課題です。現在、私は派遣先において、線虫を用いて遺伝学的スクリーニングを行い、mTORC1の新しい機能を解明する可能性を見出しています。

こちらでは、様々な人と交流するシステムが整えられています。例えば、月に一度、線虫を用いる研究室が集まり、ミーティングが行われています。各研究室が持ち回りで最新の研究を紹介し、内容について議論することで、研究の発展と加速を促進しています。また、シンポジウムも頻繁に開催され、老化・寿命研究だけでなく、様々なテーマで行われており、基礎から臨床まで多様な研究を学ぶことができます。

Blackwell研究室

先日、UCLAで行われた線虫の国際学会に参加したときには、著名な研究者の話を聞いたり、自身もポスター発表を行い、意見を交換することができました。

UCLAにて行われたInternational C. elegans Conferenceの参加者

学会にてポスター発表中の筆者

研究面では、コアファシリティが充実しており、個々のラボには設置できないような機器や技術を共用することができます。私自身も国や分野の垣根を越えて学ぶことが自身の研究を顧み、発展させる機会になると考えて積極的に取り組んでいます。